綺麗な花々が軒を連ねている。
太陽に向かって懸命に背を伸ばし大地に根を張る。
――彼らは幸せなんだろうか?
ふと私の心の中に過ぎった一見どうでもいいような疑問。
でも外来種の花々は子供の時に母国から連れ出されてこの国で咲いている。
そしてまた子孫を残す。
――所詮は人間のエゴではないだろうか?
美しい花、図鑑でしか知る事の出来なかった花を見てみたい。
そのためだけに花は大地に根を残して切り盗られほんの一瞬だけ儚く咲く。
「花には感情が無いから」とか言う人も居るだろうが私は逆に聞いてみたい。
――感情が無い生き物なら何をしても許される?
遺伝子組み換え。好きな色を出すための交配。
人間に置き換えてみれば人造人間を作った挙句、
都合の良い天才を生むために相手を選ぶようなものだ。
そういう無理に作った物に限って痛みに弱い。
私は橋の上から川を眺める。最近川の両端を綺麗に舗装して川の中に入れなくなった。
元々人の手なんか入っていなかったが水際には多くの雑草が汚らしく生えている。
私は思わずため息をもらす。
――所詮、人間は綺麗なものが好きなんだ。
自分たちの意にそぐわない者、汚らしい物を何処か綺麗な張りぼての
檻の中に閉じ込めておきたいだけなんだろう。そうして結局は見捨てられる。
私は再び大きなため息を漏らす。すると背の高い雑草の中から合鴨が顔を覗かせた。
小さなすずめなら良く見ていたが鴨が住んでいるなんて知らなかった。
鴨はゆっくりと水に中に入りその後を追うように小さな鴨が水に入っていく。
合鴨の親子たちは水面を滑るように泳ぎ移動してゆく。子供たちの水中訓練だろうか?
親鴨の後を子供たちがくっついて泳いでいる。
すると背後から突然カモメの鳴き声が響く。そういえば『餌をあたえないでください』
って書いてある。背後の子供たちはその警告を無視してカモメに餌を与え続けている。
良く見ると川の中には白鷺の姿もあった。
――閉じ込められた訳じゃないのかもね?
今日は朝から激しい雷雨。テレビでは防水警報がたびたび流れ雷が怒り狂っている。
私に家は川に近いところに在るためどうしても溢れてしまわないか気になって仕方が無い。
すると我が家の愛犬たちは雷に怯えて私にしがみ付いて来て身動きが取れない。
ふと思い出したのはあの合鴨の家族。
私たちはこうして一緒に居るがアノ子達は増水した川に押し流されてはいないか
心配になってしまった。雨が止んだら見に行こう。
雨は上がり太陽が憎らしいほどに照りつける。川はどうやら溢れたようだった。
現場を見たわけではないが川に続く道々に草やゴミが溢れかえっていたからだ。
私は急ぎ足で橋の上まで来ると川を覗き込む。すると私は昨夜の雷雨の恐ろしさを
思い知った。草と言う草は全てなぎ倒されていて合鴨の姿は何処にもなかった。
――一瞬、ここで見た奇跡は消えてしまったのだろうか?
こんなにも儚く?何が辛いのか、何を考えているのか、何に怒りを感じているのか
私にも分からなくなって来たその時、合鴨たちがペシャンコになった草の上に
乗っかって居るのが見えた。子供たちも一人も欠ける事無く家族は寄り添っていた。
なぎ倒された雑草は数日後には太陽に向かって伸びていて、そこには合鴨たちが
住み着いていた。もっと住みやすい所も探せばあるだろうに、よほどあの場所が気に入った
のか引越しの計画は無い様に見えた。
――私もああなりたい。
合鴨の家族たちを優しく育み、なぎ倒されても、踏みにじられても、ただ真っ直ぐに
太陽に向かって伸び続ける雑草に。
疎まれても良い。情けなくて、汚らしくても良い。ただ真っ直ぐに
自分の信念だけを貫き通したい。
――そして何時の日か小さくてささやかな花を咲かせてみたい。